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いずれ訪れる終末、そして千年王国(メシア王国)を待ち望む

「漢方がん治療」を考える

2023年02月16日 

 

銀座東京クリニックさんのHPより転載

https://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/ab3fd3a6cabefe67b39d8adae1746a34

 

「漢方がん治療」を考える

がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。

 

843) 駆虫薬が癌に効く:メベンダゾール、イベルメクチン、ニクロサミド

 

図:寄生虫治療薬のメベンダゾール、イベルメクチン、ニクロサミドはがん細胞で異常を起こしているシグナル伝達系(PI3K/Akt/mTORC1, Wnt/β-カテニン, Hedgehog, PAK-1, NF-κB, STAT3など)を阻害し、微小管脱重合や血管新生やP-糖タンパク質を阻害して抗腫瘍効果を発揮する。3種類の駆虫薬を併用すると相乗的な抗腫瘍効果を発揮する。

843) 駆虫薬が癌に効く:メベンダゾール、イベルメクチン、ニクロサミド

【特許が取れないと製薬会社は薬にしない】
標準治療で使用される薬は日本では基本的に保険適用薬に限られます。「保険医は、厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し、叉は処方してはいけない」という規則が定められています。(保険医療機関及び保険医療養担当規則の第19条)
治験用に用いる場合に限って例外は認められていますが、基本的には保険医療機関や保険医が保険適用薬以外を患者に使用することは禁じられているのです。

保険適用されるためには、製薬会社が臨床試験を実施し、有効性や安全性を証明して、厚生労働大臣に製造販売の承認を受けなければなりません。この場合、その物質の特許を取得できれば、その薬を独占して販売できるため利益を得ることができます。
しかし、特許が取れない場合は、莫大な費用(何十億円とは何百億円)を出して臨床試験を実施するメリットがありません。特許がなければ後発薬(ジェネリック薬)がすぐ出て来て利益が得られないためです。その結果、どの製薬会社も薬として申請しません。誰かが申請しなければ保険薬あるいは承認薬として認可されることはないので、標準治療の中で使用されることは永久にないことになります。

例えば、ジクロロ酢酸ナトリウム-デオキシグルコースメラトニンなど世界中でがんの代替医療で使用され、臨床試験で有効性が示されている物質も、何十年も前から知られている物質で物質特許が取れないので、製薬会社は費用を負担して臨床試験を実施することも、医薬品として開発することもありません。研究者が公的な研究費を使って小規模な臨床試験を行っている程度です。
また、サプリメントとして日本でも流通している
ビタミンD3ドコサヘキサエン酸(DHAなどがん治療における有効性が臨床試験で証明された物質も、がん治療における保険適用薬にはなり得ないので標準治療を行っている保険医ががん治療に処方することはありません。このような薬やサプリメントは患者さんが自分の意思と自己責任で利用するしかないということになります。

【がん治療薬以外でがんに効く薬も標準治療では使用されない】
がん治療以外に使用されている既存薬の中に、がん治療に有効な薬は多数あります。例えば、糖尿病治療薬のメトホルミン高脂血症治療薬のシンバスタチンが、抗がん剤治療の効き目を高めたり、がん患者さんの生存率を高めることが多くの臨床試験で明らかになっています。しかし、これらの薬をがん治療薬として保険診療で使用することはできません。メトホルミンもシンバスタチンも保険適用疾患の中に「がん」が入っていないためです。

がん治療以外の既存薬でも、抗がん作用が確認されれば、がん患者を対象にして新たに臨床試験を実施して、適用疾患にがんを追加することはできます。
しかし、特許権の存続期間は原則として特許出願日から20年で、通常は臨床試験を開始する前に出願するので、臨床試験が終了して薬として認可される頃には特許は10年程度しか残っていません。さらにがん治療薬としての別の臨床試験が終わるころには特許が切れるので、そのような申請も行われない可能性が高いと言えます。

前述のメトホルミンやシンバスタチン以外にも、胃酸分泌阻害薬のシメチジン、シクロオキシゲナーゼ-2阻害薬のセレコキシブ(celecoxib、駆虫薬のイベルメクチンメベンダゾールなど、他の疾患の治療に用いられている薬で抗がん作用が臨床試験で示されている薬は世界中で多数あります。しかし、これらは特許が切れているので今後がん治療薬として開発されることも認可されることもないと言えます。

がん治療以外で承認されている2000以上の医薬品のうち、少なくとも235個の薬において、in vitroin vivoまたは臨床的に抗腫瘍活性が証明されています。以下のような報告があります。

Repurposing non-cancer drugs in oncology - How many drugs are out there?  (腫瘍学における非がん治療薬の転用 - 世の中にはいくつの薬があるのか?bioRxiv. 2017:197434.

抗腫瘍活性が認められた235種類の医薬品のうち、6729%)はWHO必須医薬品リスト(WHO list of essential medicines)の薬であり、17675%)は特許期限切れの医薬品で、13357%)はがん患者での臨床データがあります。4種類(サリドマイド、全トランス・レチノイン酸、ゾレドロン酸、非ステロイド性抗炎症剤)はがん治療における使用法のガイドラインが既に存在します。
その他に、ランダム化臨床試験でがん治療に有効性が報告されている再利用医薬品として
シメチジン(大腸がん)プロゲステロン乳がんイトラコナゾール(肺がん)などが報告されています。

このような薬をがん治療の目的で使用しようとすると、日本では保険適用の疾患を持っていなければ処方はできません。つまり、保険診療医療機関では、保険適用の病気を持っていなければ、たとえがんに対する効果が証明されていても使えないことになります。
しかし、自由診療医療機関であれば保険適用外の処方も可能になります。このようながん治療において有用な保険適用外使用の例は多くあり、このような薬が
がんの代替医療で利用されています。

以上のような理由で、サプリメントやがん以外の治療に使われている既存薬や古くから知られている抗がん成分などは、たとえがん治療に有効性が証明されても、標準治療に使われることは永久に無いことになります。しかし、それらはがんの補完・代替医療の重要な薬になります。つまり、補完・代替医療で使用されている薬やサプリメントの中には有効性と安全性のエビデンスが高いものも多く存在するのです

40年以上前の抗がん剤がまだ使われている】
医薬品の開発には莫大な費用と長い年月がかかります。新薬の開発は年々困難になっているようです。新薬として認可されるには、既存の医薬品より有効性や安全性で優位性が証明されなければなりません。つまり、新しい薬ほど認可されるハードルが高くなります。
がん治療薬は特に開発リスクが高いことが指摘されています。米国のデータでは、2003年から2011年の間に第1相臨床試験の開始がFDA(米国食品医薬品局)に認められた物質のうち、最終的に医薬品として認可されたのは6.7%で、この数値は他の領域の医薬品(がん治療薬以外の薬)の半分の成功率と報告されています。

動物実験などの基礎研究でがんの治療薬として効果が期待されて臨床試験の許可を得た候補薬のうち、20個に1個程度しか最終的に薬として成功していません。残りは、開発中止になるので、それまでの研究開発費用は無駄になるということです。
血液がんの治療薬に比べて、
固形がんの治療薬は特に開発が難しいようです。固形がんというのは、肺がんや胃がんや大腸がんのようにがん細胞の塊を作る悪性腫瘍です。固形がんに対する新薬を作るのが困難なことは、40年以上前の抗がん剤がいまだにがん治療の主流で使用されていることからもわかります。

乳がんの代表的な抗がん剤治療にAC 療法があります。AC療法とは、アドリアマイシン(Adriamycin)シクロホスファミド(Cyclophosphamide)という2種類の異なる作用機序の抗がん剤を組み合わせた治療であり、その頭文字をとって AC 療法と呼んでいます。シクロホスファミド(エンドキサン)は日本では1962年に発売されており、アドリアマイシン(ドキソルビシン)の日本での発売は1975年です。

葉酸代謝拮抗薬のメトトレキサートは米国で1950年代から使用され、日本では1963年に販売されています。
乳がん抗がん剤治療でCMF療法というのがあります。シクロホスファミド(エンドキサ ン)とメトトレキサート(メソトレキセート)とフルオロウラシル(5FU)の3種類の併用療法です。フルオロウラシルは日本で1981年に発売されています。
多くのがんの治療に使用されている
シスプラチン1978年に米国とカナダで承認されています。1978年は45年前です。

このように40年から60年以上前から使用されている抗がん剤が、いまだに多くのがんの治療の主流として使用されているのです。
最近は細胞の受容体やシグナル伝達物質をターゲットにした分子標的薬が開発されていますが、それほど大きな治療効果は得られていません。
がん治療薬の開発は製薬会社にとって非常にリスクが高いので、新薬として認可された薬は、その薬自体の研究開発に費やした費用の何十倍もの研究開発費を回収しないと元が取れないために、がんの新薬は年々高額になっています。

【医薬品の転用(再利用)と適用外使用】
費用が安く副作用が少なければ、延命効果が少しでも、その方が良いと考えるがん患者さんも多くいます。そのような患者さんの受け皿になる治療が必要です。これは、「副作用が少なく、費用が安価で、それなりの抗腫瘍効果や延命効果がある」というのが条件になります。
最近、がん以外の既存の治療薬や、がん以外の治療の目的で臨床試験が行われて有効性が証明できなかった物質などからがん治療薬を見つける研究が注目されています。それは、開発の費用を少なくし、期間を短縮することができるからです。
がん以外の治療薬で抗がん作用があるものは、通常の抗がん剤のような強い毒性(副作用)が少ないものが多いと言えます。したがって、このような薬は「副作用が少なく、費用が安価で、それなりの抗腫瘍効果や延命効果がある」という条件に合致する可能性があります。

莫大なお金がかかる新薬の開発において、近年注目されているのが、既存の医薬品が他の治療薬にならないかを検討する医薬品転用(再利用)です。がん以外の疾患の治療に用いられている既存薬や、がん以外の疾患の治療薬として開発されて臨床試験まで行ったが有効性が証明できなくて開発中止になった物質を、がんの治療薬として転用(再利用)する研究が注目されています。
医薬品転用は「
ドラッグ・リポジショニング(Drug Repositioning」あるいは「ドラッグ・リパーポジング(Drug Repurposing」の日本語訳です。「Repositioning」や「Repurposing」というのは、位置や立場(position)や目的や意図(purpose)を新たにする(re-)という意味です。医薬品の「転用」や「再利用」という意味です。
ヒトでの安全性や体内動態が既に確認されている既存薬や、ある疾患の治療薬として臨床試験が行われたが有効性が証明できなかった物質を対象にして、これらの物質の新たな薬効を見つけ出し,実用化につなげていこうというのがDrug Repositioning(あるいはDrug Repurposing)という方法です。新規の開発よりも、開発の費用を減らし期間も短縮できるというメリットがあります。
がん治療薬の場合、そのような既存薬や薬の候補成分を、培養がん細胞(in vitro)や移植腫瘍などを使った動物実験in vivo)で抗がん活性を見つければ、すでに安全性や薬物動態が判っているので比較的早く臨床試験を実施できます。
最近は、薬剤の候補物質がデータベース化され、細胞の受容体やシグナル伝達物質の構造のデータベースや、抗がん剤による遺伝子発現パターンのデータベースなど様々な情報をコンピューターを使って探索する方法(in silico)もあります。
in silico」という用語は,「コンピュータ(シリコンチップ)の中で」の意味で、in vitro(試験管内で)やin vivo(生体内で)に対応して作られた用語で、コンピューターを駆使した研究です。
米国では、FDA(米国食品医薬品局)が承認した既存薬や、開発に失敗して製薬企業内で保存されている物質のデーターベースが公開されており、様々な手法で新たな薬効を見つける研究が進んでいます。

寄生虫治療薬ががんに効く】
心臓病や脳疾患や代謝性疾患など多くの疾患は、臓器や組織の機能の低下や喪失が発症の原因となっています。
一方、
がんは異常細胞の塊によって構成される新たな組織の発生によって引き起こされます。がん組織は異常な増殖能を持った細胞の塊ですが、正常な間質細胞(線維芽細胞や炎症細胞など)や血管を取り込んで、一つの組織といえる新しい集合体を作っています。そして、自律増殖能を有し、浸潤・転移によって全身に広がり、宿主である私たちの体が死ぬまで無制限に増殖します。

このような性質は、寄生虫や真菌や細菌など感染性疾患と似ています。つまり、がんは寄生虫や真菌や細菌のように私たちの体に感染(寄生)し、正常な体を蝕んでいく性質を持っています。
それが理由かどうかは不明ですが、
寄生虫や細菌などの感染症の治療に使われる薬ががんにも効くという例が数多く知られています。これらは副作用が少なく安全性が高く、比較的安価なので、これらの寄生虫治療薬を複数組み合わせたがん治療の可能性が指摘されています。

メベンダゾールはベンズイミダゾール系の広範囲作用型の寄生虫治療薬(駆虫薬)です。線虫、条虫(サナダムシ)、回虫など多くの寄生虫に広く作用します。
培養細胞(in vitro)や動物実験in vivo)やコンピュータ解析(in silico)など複数の実験系で強い抗がん活性が報告されています。

メベンダゾールが寄生虫を死滅させる作用機序として、チュブーリンの重合を阻害して、細胞の分裂に重要な役割を果たす微小管の働きを阻害する効果が提示されています。
微小管阻害としてパクリタキセル(商品名;タキソール)やビンクリスチンなどがあります。 パクリタキセルpaclitaxel)はチューブリン (tubulin) の重合を促進することにより微小管 (microtubule) を安定化し、がん細胞の分裂を阻害します。
微小管はαとβのチュブリンの2量体から形成され、タキソールはその内β-チュブリンに結合し、その重合を促進することにより抗がん作用を示します。
一方、メベンダゾールはチュブリンに結合して微小管の重合を阻害します。メベンダゾールはチュブリンのコルヒチン結合ドメインに結合します。 メベンダゾールはその他に、血管新生阻害、Wnt/βカテニン経路阻害、ヘッジホッグシグナル伝達系阻害など多彩なメカニズムによる抗がん作用があります。(下図)

図:細胞分裂の際に複製されたDNA(染色体)は微小管によってそれぞれの細胞に分けられる(①)。微小管はαチューブリンとβチューブリンが結合したヘテロ二量体を基本単位として構成され、チュブリンのヘテロ二量体が繊維状につながったものをプロトフィラメントと呼び、これが13本集まって管状の構造(直径25nm)になったものが微小管となる。メベンダゾールはチューブリンに結合して微小管の重合を阻害し、細胞分裂M期を停止させてアポトーシスを起こす(②)。血管内皮細胞の血管内皮細胞増殖因子受容体-2VEGFR-2)に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が結合するとVEGFR-2は二量体を形成し、チロシンキナーゼドメインに存在するチロシン残基の自己リン酸化が引き起こされ、細胞内のシグナル伝達系が活性化され、血管内皮細胞の増殖や血管形成が促進されて血管新生が促進する(③)。メベンダゾールはVEGFR-2の活性化を阻止して血管新生を阻害する(④)。Wntが受容体のFrizzledLRP5/6に結合してWntシグナルが活性化されるとβ-カテニンが細胞質内で増加して核内に移行して転写因子のTCFに結合し、β-カテニン/TCFのターゲット遺伝子(c-mycやサイクリンD1など)の転写を活性化して、細胞の増殖を亢進する(⑤)。 メベンダゾールはTCFを活性化するキナーゼのTNIK (Traf2- and Nck-interacting kinase)を阻害してTCFの転写活性を阻害する(⑥)。このように、メベンダゾールは多彩なメカニズムで、がん細胞の増殖を阻止し、細胞死を誘導する。

イベルメクチンは、土壌から分離された放線菌Streptomyces avermitilisの発酵産物から単離されたアベルメクチン類から誘導されました。日本国内では、腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として保険適用されています。

イベルメクチンは、中南米やアフリカのナイジェリアやエチオピアで感染者が多く発生している糸状虫症の特効薬です。糸状虫症はオンコセルカ症河川盲目症とも呼ばれ、激しい掻痒、外観を損なう皮膚の変化、永久失明を含む視覚障害を起こします。その他、リンパ系フィラリアなど多くの種類の寄生虫疾患に有効で、人間だけでなく、動物の寄生虫疾患治療薬として広く使用されています。
イベルメクチンは、無脊椎動物の神経・筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロール(Cl)チャネルに選択的かつ高い親和性を持って結合します。その結果、クロール(Cl)に対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極が生じ、その結果、寄生虫が麻痺を起こし、死に至ります。哺乳類ではグルタミン酸作動性クロールチャネルの存在が報告されていないので、安全性は極めて高いと言えます。

このように、イベルメクチンの安全性は非常に高く、寄生虫に感染した人間に対して、寄生虫が死滅する過程で引き起こされる免疫応答や炎症反応に起因する症状以外には、副作用をほとんど起こらないと言われています。 さらに、多数の前臨床試験で抗がん作用が確認されています。
培養細胞を使った実験では、乳がん卵巣がん前立腺がん、頭頸部がん、大腸がん、膵臓がん、悪性黒色腫など多くのがん種で抗腫瘍効果が報告されています。 がん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導だけでなく血管新生阻害作用を示すことも報告されています。
動物実験でも抗腫瘍効果が認められています。 イベルメクチンの抗がん作用のメカニズムとして、ミトコンドリア呼吸阻害、酸化ストレスの誘導、Akt / mTOR経路の阻害、WNT-TCF経路の阻害、PAK-1阻害、血管新生阻害などが報告されています。メベンダゾールと同様に、イベルメクチンがチュブリンと結合して微小管の働きを阻害する作用も報告されています。
イベルメクチンのin vitroおよびin vivoの抗腫瘍活性は、健康な人間および寄生虫感染患者で行われたヒト薬物動態研究に基づいて臨床的に到達可能な濃度で達成されることが明らかになっています。

図:Ivermectin(イベルメクチン)は、22,23-ジヒドロアベルメクチンB1a(H2B1a)が80%以上、22,23-ジヒドロアベルメクチンB (H2B1b)が20%以下の混合物。イベルメクチンは糞線虫症、糸状虫症、疥癬症など多くの寄生虫疾患の治療に使用されている。イベルメクチンが様々なメカニズムで抗がん作用を発揮することが報告されている。

【駆虫薬のニクロサミドはがん幹細胞特性に関与する複数のシグナル伝達系を阻害する】
ニクロサミド(Niclosamide)は、1953年にバイエルの化学療法研究所で発見されました。当初、住血吸虫症の中間宿主であるカタツムリを殺すための軟体動物駆除剤として開発されました。
1960年、バイエルの科学者はヒトの条虫感染に対して有効であることを発見し、1962年にヨメサン(Yomesan)という商品名で、人間が使用するために販売しました。
ニクロサミドは、1982年にサナダムシ感染を治療するためのヒトへの使用が米国FDAによって承認され、世界保健機関の必須医薬品のリストに含まれています。

何百万人もの患者を安全に治療するために使用されています。このような広く使用されている薬物ですが、ニクロサミドの作用メカニズムは十分に解明されていません。過去数年の間に、ニクロサミドが複数のシグナル伝達経路と生物学的プロセスを阻害または制御できる多機能薬であるという証拠が蓄積されており、蠕虫病以外の新しい治療法として開発できる可能性が指摘されています。
がん治療における利用も報告されています。以下のような報告があります。

Niclosamide, an old antihelminthic agent, demonstrates antitumor activity by blocking multiple signaling pathways of cancer stem cells.(古い駆虫剤であるニクロサミドは、がん幹細胞の複数のシグナル伝達経路を遮断することにより、抗腫瘍活性を示す)Chin J Cancer. 2012 Apr; 31(4): 178–184.

【要旨の抜粋】
経口駆虫薬であるニクロサミドは、サナダムシ感染症の治療に約 50 年間使用されてきた。最近、いくつかのグループが、ニクロサミドががん細胞に対しても有効であることを発見したが、その抗腫瘍作用のメカニズムは完全には理解されていない。
ニクロサミドが複数のシグナル伝達経路 (NF-κB、Wnt/β-カテニン、Notch、mTORC1、Stat3など) を標的とすることが指摘されており、それらのシグナル伝達経路はがん幹細胞と密接に関係している。 この薬の抗腫瘍活性と分子標的の解明におけるエキサイティングな進歩について説明する。その潜在的な抗腫瘍活性を考えると、ニクロサミドとその誘導体のがん治療における臨床試験が行われる必要がある。

ニクロサミドはβ-カテニン/c-Myc 軸の制御を介してがん幹細胞特性阻害することが報告されています。以下のような報告があります。

The Antihelminthic Niclosamide Inhibits Cancer Stemness, Extracellular Matrix Remodeling, and Metastasis through Dysregulation of the Nuclear β-catenin/c-Myc axis in OSCC.(寄生虫治療薬のニクロサミドは、口腔扁平上皮がん細胞における核の β-カテニン/c-Myc 軸の制御を介して、がん幹細胞特性、細胞外マトリックスのリモデリング、および転移を阻害する)Sci Rep. 2018; 8: 12776. 

【要旨の抜粋】
ニクロサミドは、寄生虫感染症の治療に使用される経口駆虫薬で、多くのがん細胞に対して抗がん作用を示す。
本研究では、ALDH 陽性ヒト口腔扁平上皮がん細胞が、多能性転写因子の OCT4、Nanog、および Sox2 の発現亢進を示し、腫瘍塊形成によって実証されるようにがん幹細胞特性を示すことを明らかにした。
さらにニクロサミドが、ヒト口腔扁平上皮がん細胞株(SCC4およびSCC25細胞株)においてβ-カテニン、Disheveled 2 (DVL2)、リン酸化グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β (p-GSK3β) およびサイクリンD1をターゲットにして、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の活性化を効果的に阻害することを示した。また、腫瘍細胞塊の形成を減少させた。
さらに、ニクロサミドは、E-カドヘリンおよびメタロプロテイナーゼ 2 (TIMP2) mRNA レベルを用量依存的に亢進し、ビメンチン、snail、MMP2 および MMP9 mRNA の発現レベルを低下させ、口腔扁平上皮がん細胞の上皮間葉転換、遊走およびコロニー形成を阻害することを示した。
ニクロサミドのこれらの抗がん活性は、siRNAトランスフェクションを使用した核β-カテニン/c-Myc発現の干渉によって引き起こされるものと同様であった。
最後に、ニクロサミドがシスプラチン誘発の口腔扁平上皮がん細胞幹細胞濃縮を阻害し、ALDH陽性腫瘍塊におけるシスプラチンに対する感受性を高めることを実証した。
これらの実験データは、蓄積された他の証拠と合わせて、口腔扁平上皮がんの治療におけるニクロサミドの可能性と有効性を示唆している。

ALDH(アルデヒド脱水素酵素)はがん幹細胞に多く発現しており、がん幹細胞のマーカーとなっています。つまりALDH陽性がん細胞というのはがん幹細胞を意味します。ALDH活性が高いがん細胞はがん幹細胞の性質を持っていることが多くの研究で明らかになっています。

がん幹細胞の維持に必要な遺伝子としてNanog、Oct-4、Sox-2, Klf4 、c-Mycなどが知られています。
細胞を初期化してiPS細胞を作る時に導入されるいわゆる山中因子というのは、Oct3/4、Sox-2、Klf4、c-Mycの四つです。この4つはがん幹細胞の維持にも必要です。Nanog は多能性を安定化させる因子と見られています。このようながん幹細胞の性質維持が必要な遺伝子はALDH陽性細胞に多く発現しているということです。
ニクロサミドはWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害を介して、がん幹細胞特性の維持に必要な多能性転写因子の OCT4、Nanog、Sox2 の発現を低下し、腫瘍形成や転移を抑制する作用があることを報告しています。

近年、ニクロサミドはがん研究で広く研究されており、複数のがん関連シグナル経路を効果的に阻害することが示されています。ニクロサミドが Wnt/β-カテニン シグナル伝達の阻害剤であり、Wnt 共受容体 LRP6 の分解を促進しながら、β-カテニン/TCF 複合体の形成を妨害することを示しました。
いくつかの研究では、前立腺がん、乳がん、骨肉腫、および結腸直腸がんの抑制におけるニクロサミドの抗腫瘍活性が評価されています。ニクロサミドは Hedgehog、JAK/STAT3、NF-κB、Akt/mTORCなど、がん幹細胞特性の維持に必要なシグナル伝達系にも作用することが報告されています。

図:Wntシグナルがオフ(OFF)の状態では、β-カテニンは、casein kinase 1α (CK1α)glycogen synthase kinase 3 β (GSK-3β) axis Inhibition (Axin) adenomatous polyposis coli (APC)からなる「破壊複合体」によって分解されている。Wntリガンドがfrizzled受容体と低密度リポタンパク質関連タンパク質 5/6 (LRP5/6) に結合すると、DVLがβ-カテニンのリン酸化を抑制し、プロテアソームによる分解から免れ、細胞質内にβ-カテニンが蓄積して核移行が可能になる。核内でβ-カテニンは転写因子Tcf/LefT-cell factor/lymphoid enhancer factor)と複合体を形成して標的遺伝子(c-Myc、サイクリンD1など)の発現を促進することによって、細胞増殖を促進する。

以上のように、寄生虫治療薬のメベンダゾール、イベルメクチン、ニクロサミドは多彩なメカニズムで抗腫瘍効果を発揮するので、これら3種類の駆虫薬を併用すると相乗的な抗腫瘍効果が期待できます。
実際に使用していますが、副作用は極めて軽微です。

 

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